近年、主にEUで注目されている概念「データスペース」は、複数の国や組織間でデータを連携する仕組み。日本経済団体連合会（経団連）が2024年10月に産業用のデータスペースの推進を求める提言を発表しました。データスペースの概念やメリットを詳しく見ていきましょう。

参照：産業データスペースの構築に向けて (2024-10-15)｜経団連
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/073.html

データスペースとは

デジタル社会において、データ活用は、ビジネスを展開し競争力を強化するために重要な役割を果たします。

アメリカや中国では企業単体で収集したビッグデータを活用するサービスのデファクトスタンダード化が進んでいますが、EUは国や組織を超えてデータ連携するために、データ基盤やルールを整備して、EU主導での国際的な標準化を推進しています。

データスペースは、異なる組織・国間（エコシステム）、また異業種間でデータを共有する仕組みです。多種多様で信頼性のあるデータが安心して利用できることを目指しています。

各国のデータスペースの取組み

EUではすでに体系的な取り組みを進め、分野を横断したデータ連携の事例が増えつつあります。そのもととなっている技術はIDSAやGaia-Xです。

IDSA（The International Data Spaces, e. V.）は、ドイツのフラウンフォーファー研究機構を中心とした産学官連携のプロジェクト。2016年にIDS（Industrial Data Space）として設立され、その後IDSAに改称しました。

自動車、通信、化学、金融、鉄道、ITなどの業界から、22か国以上、130以上の企業や組織が参画しています。

Gaia-Xは、2020年6月に発足した欧州統合データ基盤プロジェクト。ドイツとフランスの政府が立ち上げたこのプロジェクトは、当初22社から活動開始しましたが、現在は300社以上が参加しています。

データスペースで実現できること

データスペースでデータが共有できるようになると、企業にとってビジネス上のメリットがあるほか、社会的にもメリットがあるといわれています。

ビジネスでのメリットは、データを活用した新しいビジネスを創出し、スピーディーに開始できることがまず挙げられます。共通のツールやサービス、データを利活用できるようになるためです。

また、社内に専門知識を持つ人がいなくても、データスペースを利用すれば各分野の集合知が得られます。

高度なデータ分析でトレンドを掴み、マーケティング戦略を改善、問題があれば早期発見につなげられます。

データスペースでは共通のプラットフォームを構築するため、社内だけでデータを管理するよりも、セキュリティ向上やサイバー攻撃対策も望めます。

社会的なメリットとしては、石油、ガス、風力などを横断した資源のデータが得られるようになり、持続可能な社会の実現につなげられるようになります。

ほかにも、自然災害や感染症をはじめとする健康危機の予測も今より迅速かつ正確に得られる可能性が高まります。災害や大きな事故が起きたときは、交通やライフライン、通信回線などをいち早く分析し、復旧できるようになるでしょう。

また、誰でもデータを活用できるようになれば、多くの人が教育やビジネス面で平等な位置に立てそうです。

データスペースを支える技術

データスペースの実現のためには、デジタル基盤（プラットフォーム）の整備・活用が必須です。デジタル基盤には、以下の6項目を含みます。

共通サービス、ツール：データカタログ、辞書、ID
共通機能：コネクタ、アクセス制御
参照モデル：技術的なルール、データモデル、語彙
開発環境：テストベッド
データ活用：AI分析
ガイドライン：ナレッジ、教材

データカタログ機能というのは、データの名称、作成者、作成日、利用条件等のメタ情報で、データ利用者が、必要としているデータであるかどうかを判断する情報です。異なる形式の項目を共通化し、横断検索を可能にします。

コネクタは、データの提供者と利用者をつなげて、データ連携を可能にする機能です。コネクタは電源コンセントにも例えられます。コンセントは共通仕様になっていて、個々の機器のために電源を開発することはありません。データ連携のコネクタもそれと同様に、共通で用意されているものを用いるので、アプリケーションごとにデータ受け入れの開発をする必要がありません。

アクセス制御に用いるのは、利用者と提供者の間でデータ取得のための「契約」を管理する、「契約管理機能」、データ利用者のみデータを利用できる「認証・認可機能」、データ改ざんなどがないか、連携の履歴を記録する「来歴管理機能」などが該当します。

このような技術が備わった国内のデジタル基盤に「DATA-EX」があります。

DATA-EXは、一般社団法人データ社会推進協議会（Data Society Alliance＝DSA）が行う取り組みの総称です。

DATA-EXプラットフォームは、データカタログ検索機能、分野を超えたデータの発見、利用ができる仕組みである「CADDE」、データ管理機能、統計、解析などの共通機能を開発し、2025年から本格稼働する計画となっています。

日本でのデータスペースは、2024年時点ではまだ動き始めていませんが、2025年以降、勢いをつけて広く展開されていきそうです。

まとめ

データスペースは複数の国や組織間でデータを連携する仕組み
EUではデータスペースの取組が広がっている
日本でのデータスペースの取組が本格化するのは2025年以降の見込み