長らくAzure ADの名前で親しまれてきたAzure Active Directoryは2023年10月、Microsoft Entra製品ファミリーに組み込まれる形でMicrosoft Entra ID（以下、Entra ID）へ名称を変更しました。

Entra IDは、Microsoftが提供するクラウドベースのIDおよびアクセス管理ツールです。ところが、Azure ADの頃から名前だけは知っていても、Entra IDがどういう仕組みなのかを知らない、あるいは難しくてよくわからないという人が多い不思議なサービスでもあります。

そこで今回はEntra IDとは何か、そして比較されることの多い「Active Directory Domain Services（AD、あるいはADDS）」との違いについて説明します。

Entra IDとは何か

Entra IDとは、Microsoft 365やMicrosoft AzureなどMicrosoftが提供するクラウドサービスを利用するユーザーアカウントを一元的に管理する仕組みです。Entra ID自身もクラウドサービスとして提供されており、インストールすることなく常に最新の機能を利用可能です。

Salesforce、Slack、Boxなどサードパーティーの提供するサービスのアカウントを連携させることで、シングルサインオン(SSO)を実現することができるのもEntra IDの特徴です。Microsoftが提供するサービスであるため、Entra IDに対応するサービスがとても多いのは大きなメリットと言えるでしょう。

IDやアクセス管理の仕組みは、ユーザーの利便性を向上するだけでなく、情報システム部門などヘルプデスクの業務を担当している部署にとっても有効なサービスです。Microsoft 365を始め、業務で利用するアカウントは増え続けています。ユーザーの所属部署や役職に沿ってアクセス権限も管理しなければなりませんし、ライセンス管理も必要になります。しかし、Entra IDで複数のアカウントを一元管理することで、こうした業務負担を大きく軽減できます。

Entra IDのメリットはSSOだけではありません。多要素認証、パスワードレス認証、セルフサービスパスワードリセット、条件付きアクセスなどセキュリティを向上させる機能も提供しています。また、別サービスであるIntuneと連携してデバイスを管理することも可能です。つまり、Entra IDを活用することで、ユーザーの利便性向上、セキュリティ機能の強化、ヘルプデスク業務の軽減といった多くのメリットが得られることになります。

Active Directory Domain Servicesとは何が違うのか

名称を変更する前のAzure ADだった頃は混同していた人も多かったようですが、オンプレミスで利用してきたADとEntra IDは別のサービスです。実は名称を変更したのは、Entra製品ファミリーを統一するというだけではなく、オンプレミスのADとの混同を防ぐことが目的だったそうです。

ADとEntra IDはどちらもIDやアクセス管理の仕組みですが、ADはオンプレミスの社内ネットワークにおける認証基盤です。一方のEntra IDはグローバルなインターネットを経由してユーザーの認証やアクセス制御を実行します。

少しだけ技術的な説明をすると、両者は利用するプロトコルが異なっています。ADはユーザー認証に「Kerberos」アクセスの制御に「LDAP」というプロトコルを使用しています。一方のEntra IDは、認証に「SAML」「OAuth」「OpenID Connect」などインターネット上で一般的に利用されているさまざまプロトコルに対応し、アクセス制御でも「RESTful API」を利用します。これがMicrosoft以外の多くのクラウドサービスと連携できる理由でもあります。

また、Entra ID自身がクラウドサービスとして提供されているため、今後新しい認証やアクセス制御の仕組みが一般化しても、Entra IDは常に最新の仕組みに対応していくことが予想されます。既存のオンプレミスの基盤のように、情報システム部門に負荷をかけることなく自動でアップデートが可能になるでしょう。

サブスクリプションによって利用できる機能が異なる

多くのMicrosoft 365には「Entra ID Free」が含まれているため、あまり意識することはありませんが、Entra IDはサブスクリプションによって提供される機能が異なっています。知らない人も多いのですが、実はMicrosoft 365を利用していなくてもEntra IDは単体で契約可能です。

サブスクリプション	1ユーザーあたりの月額価格
Entra ID Free	無料
Entra ID P1	750円
Entra ID P2	1,130円

※2024年1月時点の価格になります。

対応機能は多岐にわたるため、各サブスクリプションの詳細はMicrosoftのサイトで確認してください。また、価格は変更される可能性があります。

https://www.microsoft.com/ja-jp/security/business/microsoft-entra-pricing

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まとめ

Entra IDは、Microsoftが提供するクラウドベースのIDおよびアクセス管理ツール
Windows Serverが提供する Active Directory Domain Servicesとは別のサービス
より高度な認証やアクセス管理を実現するサブスクリプションも提供されている