Microsoftは米国時間の2024年10月15日、セキュリティに関連する年次レポート「 Microsoft Digital Defense Report (MDDR) 2024 」を発表しました。

本レポートでは、2023年7月から2024年6月 (Microsoftの2024会計年度) の期間に観測されたサイバー攻撃の傾向などを分析し、その影響などについて考察しています。それによると、引き続きサイバー脅威の状況は引き続きより危険で複雑なものとなっており、悪意のあるアクターは洗練された戦術、技術、ツールを駆使し、世界最高のサイバーセキュリティにも挑戦していると説明しています。

複雑で挑戦的でより危険度が増している

MDDR 2024の冒頭、Microsoftはサイバーセキュリティ分野において、どのような貢献をしているのかについて説明しています。Microsoftの顧客はランサムウェアからフィッシング、ID 攻撃にいたるまで毎日 6 億件以上のサイバー犯罪者や国家による攻撃にさらされています。Microsoftは１日あたり78兆件のセキュリティシグナルを分析し、サイバー脅威や犯罪の活動について洞察を得ており、顧客を保護するために１日当たり13兆のセキュリティシグナルを追加で送信しています。

Microsoft 脅威インテリジェンスは、現在1,500 以上の固有の脅威グループを追跡しています。この中には600以上の国家主導型脅威アクター、300のサイバー犯罪グループ、200の影響工作グループ、その他数百のグループが含まれています。また、増大するサイバー脅威に対し、Microsoft は約34,000人のエンジニアをセキュリティチームとして配置しています。

国家支援型脅威アクターの活動

サイバー脅威はますます高度な技術を駆使するように進化しています。増加する国家主導型脅威アクターは金銭的な利益を得るために作戦を展開し、サイバー犯罪者やコモディティ化したマルウェアを活用して情報を収集しています。

国家支援型脅威アクターによるスパイ活動、破壊活動、またはインフルエンスオペレーションのいずれであっても、サイバー空間での作戦が持続的に行われています。サイバー攻撃の増加を助長しているのは、サイバー犯罪グループと国家グループがツールや技術を共有しているからだという証拠も顕著となっています。

2024年の重要なインサイトの一つは、"教育と研究" が国家関与型脅威アクターから2番目に多く狙われる分野になったこと（1番目はIT分野）です。標的となる期間は研究や製作にインテリジェンスを提供する存在であることから、Microsoftでは「真の標的を手掛ける前の実験台として攻撃している」という可能性を示唆しています。

ロシア、イラン、中国などの国家が、生産性、効率性、対象ユーザーエンゲージメントの向上を求めて、AI によって生成または強化されたコンテンツを活用しているという観察結果もあります。昨年、Microsoftは国家支援型アクターが金銭的利益のために作戦を実行し、特にウクライナ軍に関する情報を収集するためにサイバー犯罪者を雇い、サイバー犯罪コミュニティで良く使われる情報窃取ツール、コマンド＆コントロールフレームワーク、その他のツールを使用しているのを観察しました。

ロシアの脅威アクターは、特にウクライナを標的とするサイバースパイ活動の一部を犯罪グループにアウトソーシングしています。2024年6月、疑わしいサイバー犯罪グループが一般的なマルウェアを使用し、少なくとも 50 台のウクライナ軍のデバイスを侵害しました。

その他にも、イランの国家アクターは、サイバー空間を利用した影響力作戦でランサムウェアを使用し、盗まれたイスラエルのデーティングサイトのデータをマーケティングしています。北朝鮮もランサムウェアの分野に参入しています。新たに特定された北朝鮮のアクターは、FakePenny と呼ばれるカスタムランサムウェアの亜種を開発し、影響を受けたネットワークからデータを抽出した後、航空宇宙および防衛分野の組織に展開しています。これは、情報収集と収益化の両方が目的であることを示しています。

ランサムウェア、サイバー対応型詐欺、ID攻撃、DDoSも増加

依然としてランサムウェアは、サイバーセキュリティの重大な懸念事項になっています。Microsoft の観測では、人間の操作するランサムウェアに関連した遭遇件数は前年比で 2.75 倍に増加しています。ただし、最終的に身代金の請求を受けた組織の割合は、2年の間に3分の1未満まで減少しています。

サイバー対応型の金融詐欺も世界的に増加しています。決済詐欺、正規のサービスをフィッシングや悪意ある活動のために悪用するといった技術詐欺のトレンドも発生しています。詐欺については正規サービスへのなりすまし、偽のテクニカルサポートや広告などでユーザーを騙す「テックサポート詐欺」のトラフィックは2021 年から 2023 年にかけて400%急増しています。これは、マルウェアとフィッシングを大きく上回るペースです。こうした憂慮すべき事態に対し、Microsoftは「より強力な防御の必要性を浮き彫りにしている」と説明しています。

ID 関連の攻撃も急増しており、サイバー攻撃者は窃取した資格情報を使用して重要なリソースにアクセスしています。Microsoft Entraのデータによると、ID 攻撃は1日あたり6 億件発生していますが、そのうち99%以上はパスワードベースの攻撃でした。Microsoftは、毎秒7,000 件のパスワード攻撃をブロックしています。こうした情報から、ID攻撃の脅威は幅広く執拗に行われていることがわかります。

調査期間の下半期に Microsoft が軽減した DDoS 攻撃の件数は、前年比 4 倍の 125 万件でした。2024年の注目ポイントとして、DDoS攻撃の対象がオンラインバンキングサービスなどアプリケーションレイヤーに移行しつつあることが挙げられます。これまでのネットワークレイヤーへの攻撃よりもステルス性が高く巧妙であるため、攻撃を軽減することが困難になっています。

セキュリティを最優先事項とする組織

本レポートでは、すべての人が自分の環境を管理する責任についても説明しています。組織には単なるコンプライアンスのチェックリストを超えた強固な説明責任が求められるとして、サイバー空間全体の回復力強化、脅威の理解に基づいた防御戦略を推進すべきだと主張しています。

生成AIの台頭によって、組織は最新のデータセキュリティポリシーを導入しながら、技術的負債、レガシーなセキュリティ対策、シャドー IT に対処して回復力を維持することが求められています。また、脅威の理解に基づいた防御を実現するには、組織の重要な資産に繋がる可能性の高い攻撃の経路を特定し、継続的なセキュリティ対策を実施しなければなりません。

なお、グローバルなサイバーセキュリティの脅威に対処し、組織のセキュリティを強化するには、業界と政府間のより強い共同行動が求められます。防衛システムのセキュリティ確保から、共同イニシアティブを通じた民主的な選挙の保護まで、業界、政府、組織間の協力は不可欠だとMicrosoftは主張しています。

AI がサイバーセキュリティに与える影響

急速に進化する AI の脅威の状況については、システム上の脅威とエコシステム上の脅威の両方を生み出していると説明しています。新たな脅威をもたらすアクターの手口には、AI を利用したスピアフィッシング (標的を絞ったフィッシング) 、レジメスウォーミング (組織についての虚偽情報をSNSなどで拡散して信頼性などを失わせるような攻撃)、ディープフェイク (フェイク動画や画像などを用いた詐欺) などが含まれます。

その一方で、AIは脅威の検出、対応速度、インシデント分析の改善によりセキュリティ運用を強化しています。高度な攻撃に対しても優位性を保つため、サイバーセキュリティ運用の効率的な管理を実現できます。

Microsoftは本レポートの中で、AI が脅威の状況とサイバーセキュリティ防御の両面においてどのような影響を与えているかを考察し、国家による活動を含むAI がもたらす新たなサイバーリスクにも焦点を当てています。政府と産業界は、AIの責任ある利用を確保し、AI をサイバー攻撃に悪用する、悪意あるアクターによるリスクを軽減するため、AI のセキュリティ規制、国際標準、集団防衛の取り組みについて協力関係を築いていることを紹介しています。

エグゼクティブサマリーも提供されている

MDDR 2024はMicrosoftのサイトからダウンロードできますが、総ページ数が114ページにもおよぶボリュームの大きなレポートです。そのため、カスタマーセキュリティ & トラスト担当のヴァイスプレジデントトム・バート氏は、Microsoftのブログにエグゼクティブサマリーを掲載しています。なお、このブログ記事は日本語の抄訳も掲載されています。

Microsoft デジタル防衛レポート 2024
https://www.microsoft.com/ja-jp/security/security-insider/intelligence-reports/microsoft-digital-defense-report-2024

トム・バート氏によるエグゼクティブサマリーの日本語抄訳https://news.microsoft.com/ja-jp/2024/10/17/241017

国が行うサイバーセキュリティ対策｜HYPER VOiCE
https://hypervoice.jp/cybersecuritygovernment

まとめ

Microsoftのセキュリティに関する年次レポート「Microsoft Digital Defense Report 2024」が発表された
国家支援型脅威アクターとサイバー犯罪者はツールや技術を共有し、アウトソーシングするケースも観測されている
AIはサイバー脅威の状況とサイバーセキュリティの両面に大きな影響を与えている