デジタル免疫システム（Digital Immune System：DIS）とは、システム障害やセキュリティ侵害などトラブルから迅速にシステムを保護し、回復するための仕組みです。生物が免疫機能によってウイルスや細菌のような異物から体を守るようにITシステムを保護することを目的としています。

ガートナーによる2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドのひとつとして挙げられたことでDISは世界的に注目されており、「2025年までにDISに投資する組織はダウンタイムを80%削減し、顧客満足度を高めることができる」とガートナーは予想しています。

DISはどのようにITシステムを保護するのか

DISには6つの要素が必要になるとガートナーは解説しています。

オブザーバビリティ (可観測性)

システムやソフトウェアを「可視化」することで、信頼性やレジリエンス（回復力）の問題を軽減し、UXを改善するための情報を取得します。

AI拡張型テスト

ソフトウェアテストで人的介入の工数を削減し、テストの自動化を補完／拡張する。これには、テストの計画／作成／保守／分析の完全な自動化を含みます。

カオス・エンジニアリング

実験的なテストにより、複雑なシステムの脆弱性や弱点を明らかにします。本稼働前のシステムやソフトウェアに使用することも可能で、得られた教訓を稼働後の運用に応用できます。

自動修復

コンテキストに応じたモニタリング（監視）能力と自動修復機能をシステムやソフトウェアに直接組み込むことで、何らかの問題を検知した場合でも人の手を煩わせることなく自動的に修復します。オブザーバビリティとカオス・エンジニアリングを組み合わせ、不具合のあるUXを修復することで、問題を未然に防ぐことも可能になります。

サイト・リライアビリティ・エンジニアリング（SRE）

サービスレベル目標を活用し、信頼性の高いシステムの改善を実行するエンジニアリング原則やプラクティスです。安定性、速度、リスクのバランスを調整しながら開発チームの工数を軽減し、魅力的なUXの創出に注力できるようにします。

ソフトウェア・サプライチェーン・セキュリティ

ソフトウェア・サプライチェーン全体に対する攻撃リスクに対応します。ソフトウェアを構成する部品をリストしたソフトウェア部品表（Software Bill of Materials：SBOM）には、コンポーネントの名前、バージョン、ライセンス、依存関係などの情報が含まれていますが、これらを適切に管理してソフトウェアの完全性を保護します。

何故DISが求められるのか

社会全体のデジタル化が進んだことで、ビジネスにはITシステムが不可欠となっています。もはやITのリスクはビジネスへのリスクに直結しており、ソフトウェアやシステムを開発するエンジニアの負荷が非常に大きくなっています。

たとえばセキュリティ事故が発生すれば、企業はその対応のために莫大な予算を必要とします。あるいはシステム障害が発生してしまえば、顧客に対するサービスも停止するかもしれません。復旧に時間がかかれば、損害賠償問題に発展してしまう可能性もあります。

しかしながら、ITの信頼性（故障しにくさ）、可用性（稼働率の高さ）、保守性（メンテナンスのしやすさ）、保全性（データの完全性）、安全性（セキュリティ性能）をバランスよく保ち、ビジネスの変化に柔軟に対応できるUXを提供し続けることは容易ではありません。しかも、優秀なIT人材を確保し続けることはますます困難になっています。

こうした課題を解決するために、DISという仕組みが提唱されているのです。DISはウイルス対策などセキュリティ性能を上げるためだけの仕組みではなく、ソフトウェアやシステムの新規開発、あるいは継続的改善のサイクルを回し続けるために必要な考え方だと言えるでしょう。

現在のITシステムは多種多様な機器、ソフトウェア、サービスなどで複雑に構成されていますが、オブザーバビリティを実現することで、今、どこで、何が起きているかを迅速に把握することができるようになります。また、AIの技術を活用することで、自動化できることは徹底して自動化することで、ITエンジニアの工数を大幅に削減することも可能です。

つまりDISとはシステムやソフトウェアは、開発や構築の段階からDISの仕組みに沿って作っていくことが重要なのです。

まとめ

・デジタル免疫システム（DIS）とは、トラブルから迅速にシステムを保護し、回復する仕組み
・DISはガートナーによる2023年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドのひとつ
・システムやソフトウェアは、開発や構築の段階からDISの仕組みに沿って作っていくことが大切