デジタル技術を活用して防災対策に取り組む「防災DX」。防災DXを推進することで災害対応の迅速化や自治体職員の負担軽減など、様々なメリットが生じます。今回はそんな防災DXについて、国の最新動向や具体的な取り組みについて解説します。

防災DXに関する国の動向

まず国の動向として注目したいのが、2022年12月にデジタル庁の声掛けにより発足した防災DX官民共創協議会です。同協議会は災害による被害・負担を軽減する平時・有事の防災DXの在り方について、官民共創で実現することを目的に活動しています。具体的には、マイナンバーカードを用いた防災対策の検討や防災領域で活動する団体等との対話による課題の明確化などに取り組んでいます。

また、2024年6月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。同計画では「重点課題に対応するための重点的な取組」が掲げられ、その1つとして「防災DXの推進」が明記されます。その「防災DXの推進」には、具体的には「防災デジタルプラットフォームの構築」や「防災アプリ開発・利活用の促進等/データ連携基盤の構築」など、6つの取り組みを推進するとしています。

そのほか、デジタル庁では2023年3月に「防災DXサービスマップ」をWebサイト上で公開しました。同マップでは「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧・復興」の4つの局面において、有効な各種サービスを紹介しています。自治体は同マップを参考にサービスを調達し、防災DXを推進することができるでしょう。このように防災DXは国策として着々とその取り組みが進められています。

防災DXの取り組み

では現在、どのような防災DXが取り組まれているのでしょうか。防災DXの具体的な取り組みを4つ紹介します。

【令和6年能登半島地震】Suicaを活用した避難者情報の把握

令和6年能登半島地震において石川県は、1次避難所に来た避難者等へSuicaを配布し、氏名・住所、生年月日、連絡先等の個人情報を登録してもらいました。その上で避難者等に避難所設置のカードリーダーへSuicaをかざしてもらうことで、石川県では避難者情報とニーズの正確な把握が可能に。その結果、プル型の物資支援（被災地の要請に応じて不足物資を輸送すること）が促進されました。なお、この取り組みは本来マイナンバーカードで実施されるべきものでしたが、整備が進んでおらず、Suicaが使われたとのこと。マイナンバーカードによる運用が整備されれば、Suicaよりも迅速な対応が可能になることでしょう。

参考：令和６年能登半島地震の対応におけるデジタル技術を活用した被災者情報の把握の取組｜デジタル庁

【令和6年能登半島地震】ドローンや360度カメラを活用した住家被害認定調査

同じく令和6年能登半島地震においては、石川県珠洲市の山間部や海岸部において、迅速な罹災証明書発行等を目的として、ドローンや360度カメラによる住家被害認定調査や遠隔地から被害判定を支援する取り組みが実施されました。撮影されたデータはESRIジャパン社提供のGIS（地理情報システム）技術による加工・クラウド配信がなされ、熊本市の応援職員が遠隔地（熊本市役所）より判定を行いました。この取り組みにより、ドローンや360度カメラを使えば、珠洲市の該当エリアのように人間が立ち入って調査するのが難しい場所であっても遠隔判定できることが証明されました。

参考：令和6年能登半島地震における石川県珠洲市でのドローンや360度カメラを活用した住家被害認定調査および応援自治体と事業者による遠隔判定および判定支援の実施｜NTT東日本

【デジタル庁×神奈川県】避難者支援業務のデジタル化に係る実証事業

2023年10月と2024年2月にデジタル庁では、神奈川県の協力を受け、避難者支援業務のデジタル化に関する実証事業を計2回実施しました。同事業は、発災直後の自治体業務の中でも特にウエイトの大きい“避難所運営等の業務”の効率化を目的としたもの。

第1回の実証事業では、例えばマイナンバーカード活用による業務効率化を検証し、90.2%の入所手続き業務削減効果が見られました。続く第2回の実証事業では、主にLINEのミニアプリおよび事前避難時における既存プロダクトとの連携による有効性が検証され、9割以上の避難者役から「有益である」という回答が得られました。

このようなデジタル技術活用による避難所運営等の業務の効率化は、避難者にも大きなメリットがあります。引き続き、同取り組みの推進が期待されるところです。

参考：

広域災害を対象とした避難者支援業務のデジタル業務改善に関する調査研究～第１回実証実験結果について～｜デジタル庁

広域災害を対象とした避難者支援業務のデジタル業務改善に関する調査研究～第２回実証実験結果について～｜デジタル庁

【宮城県仙台市】せんだい災害VR

デジタル技術を活用した防災学習も防災DXの一環です。宮城県仙台市では、仮想現実による疑似体験を通して防災について体験的に学ぶ「せんだい災害VR」という取り組みを進めています。VRのコンテンツは、避難行動の重要性を学べる「地震災害編」や内水ハザードマップの見方等を知ることができる「内水氾濫編」など4種類。利用者は臨場感のあるVR体験を通して災害をより自分事として捉え、防災意識を高めることができます。

参考：防災訓練や防災研修会に「せんだい災害VR」をご利用ください。｜仙台市

まとめ

防災DXとはデジタル技術を用いて防災対策を行うこと
2022年12月に防災DX官民共創協議会が発足。国も防災DXを推進中
Suicaやドローン、災害VRなど様々なテクノロジーを用いた防災DXが取り組まれている