近年、デジタルフォレンジック（Digital Forensics）という言葉を耳にする機会が増えています。特にサイバー犯罪や情報漏洩事故など、セキュリティに関係する事案が多発した際に使われることが多いのではないでしょうか。

本来、フォレンジックとは「法廷の」や「法的に有効な」といった意味を持つ単語です。これにデジタルという言葉が付くことで、コンピュータなど電子的に記録された法的証拠の保全や収集を行う行為のことを指すようになったのです。

デジタルフォレンジックとは何をするのか

デジタルフォレンジックでは、記録媒体の「証拠収集・保全」「解析・分析」「報告」という主に3つのステップを行います。

最初に行うのは証拠収集・保全です。ログやメールなどのデジタルデータは削除、複製、編集が容易であるため、証拠となるデータは可及的速やかに収集して保全しなければ、その証拠能力を失ってしまう可能性があります。また、データを保全する際は、捏造や改竄を防止するハッシュ値の生成やデジタル署名といった技術を用います。

次に収集したデジタルデータを解析・分析して、被害状況、原因、サイバー犯罪の手口や攻撃元などを明らかにしていきます。既にデジタルデータが削除や改竄されている可能性がある場合には、特殊な技術を用いてデータの復元を試みることもあります。また、解析・分析の過程で明らかになった事実に基づいて新たな証拠収集や保全が必要になることもあるため、証拠収集・保全と解析・分析のステップは繰り返し行われることがあります。

そして最終的に調査で得られた情報を元に、結果を整理して報告します。フォレンジックという言葉の持つ意味から、報告書は法廷で用いることだけを目的にしているように思われがちです。しかし、実際には顧客や取引先への説明、企業間紛争の解決、あるいは特定の企業に対する警告などさまざまな目的で利用されます。

デジタルフォレンジックで何が明らかになるのか

企業を狙うサイバー犯罪が増えたことで、デジタルフォレンジックの重要性も高まっています。サイバー攻撃の被害に遭った際、速やかに原因を究明し、被害状況を明らかにすることによって、被害を最小限に食い止めつつ、再犯防止策を講じることができるからです。

デジタルフォレンジックは、セキュリティ事案以外でも使用されることがあります。最近のビジネスの大半はコンピュータを使っているため、さまざまな記録がコンピュータ上に残されています。たとえば勤怠管理システムでは既に終業している従業員が、時間外に仕事をしていないかなどもログを見れば一目瞭然です。

こうした不自然な行動を明らかにしていくと、内部の人間による不正な情報の持ち出しというセキュリティ事案を発見できるだけでなく、勤務時間外のいわゆるサービス残業などの実態も浮き彫りになります。過去には過労死した従業員の労働実態を明らかにするため、デジタルフォレンジックの手法を用いたケースもあります。

その他にも、業務上横領、粉飾決済、インサイダー取引などさまざまな事案で、デジタルフォレンジックが重要になることは間違いありません。過去には日本国内においてもプロスポーツ競技での八百長疑惑、公職選挙法違反といった事案などでデジタルフォレンジックの技術を使っています。

デジタルフォレンジックの必要性とは

基本的にデジタルフォレンジックは、法廷で証拠として使用可能なデジタルデータの収集・保全、解析・分析を実施する行為です。しかし、訴訟とは関係ない場面においても、デジタルフォレンジックを活用する場面は多くあります。

前述したようにセキュリティ事案が発生した際、デジタルフォレンジックの手法を用いることで、攻撃手法や侵入経路を割り出し、何が狙われたのか、どのデータが窃取されたのか、システムの脆弱性はどこにあるのか解いたことを明確にすることができます。つまり、再犯防止策を講じることでセキュリティ性能を高めることができるのです。もちろん解析・分析の結果、攻撃者を特定することもあります。

企業のコンプライアンスという視点においても、デジタルフォレンジックは有効です。業務とは関係のない相手とのメールのやり取りやWebサイトの閲覧履歴なども明確にできるため、不正行為の防止にも役立ちます。また、確かな証拠によって被害状況を明らかにすることは、顧客や取引先への説明も容易になりますし、訴訟リスクを軽減することにも繋がります。

ただし、デジタルフォレンジックは、削除や改竄されたデータの復旧やログの解析など特殊な専門技術を必要とする場面が多くあります。中には破壊されたハードディスクからデータを復元するという専門家や、電話などの音声データを解析する専門家もいます。そのため、より高度なデジタルフォレンジックを必要とする場合、信頼できる専門の調査会社に依頼することが重要です。

まとめ

・デジタルフォレンジックとは、法的証拠となるデジタルデータの保全や解析の手法

・セキュリティ事案以外でもデジタルフォレンジックを必要とするケースは多い

・コンプライアンスやセキュリティ機能の強化にもデジタルフォレンジックは有効