ここ数年、DXの最初の一歩として業務プロセスの電子化を推進する動きが活発です。少子高齢化に伴う労働人口の減少により、日本企業は人材不足に苦しんでいます。少ない人数でもビジネスを動かしていくには、業務の効率化や生産性の向上は不可避です。そのための手段として、業務プロセスの電子化に取り組む企業が増えているのです。

今回は、身近なところから取り組める業務プロセスの電子化について、実例を交えながら紹介していきます。

業務プロセスと業務フローの違いとは

そもそもプロセス(Process)とは「過程」や「手順」などを意味する単語です。つまり、業務プロセスとは業務に必要なひとつひとつの手順の繋がりと言えるでしょう。同じように「業務フロー」という言葉が使われることもありますが、これは業務の「流れ」を意味しています。両者はほぼ同義であると言えますが、業務フローを車が出発地点から到着地点に到着するまでの流れだとすれば、業務プロセスは途中にある信号や高速道路の料金所に例えることができます。

業務プロセスを電子化するということは、警察官が主導で交通整理をしている交差点に信号機を設置したり、高速道路の料金所にETCシステムを導入したりするようなものです。手動だったプロセスを自動化・電子化することで車の流れ（フロー）がスムーズになり、交通渋滞の解消に繋がります。

業務プロセスを電子化するメリット

業務プロセスの電子化は、業務効率の改善や生産性向上を目的に実施するものではありますが、なぜ電子化するだけでこれらの効果があるのでしょうか。それは、業務プロセスの電子化におけるメリットとデメリットから見えてきます。

メリット

・業務の自動化

これまで手動でやっていた業務が自動化するだけで、省力化が実現して生産性が向上します。たとえば従業員の入社や退職に伴うアカウント発行や削除、必要書類の送付といった業務を自動化するなどが考えられます。

・手続きのスムーズ化・シンプル化・省力化

手続きのスムーズ化やシンプル化とは、たとえば交通費精算の手書き伝票なくし、交通費を支払った従業員が自分で経費精算システムに入力するといった改善です。申請者は申請用紙に記入する必要が亡くなりますし、経理担当者は申請用紙を目視で確認してシステムに入力する手間をかける必要がなくなります。

・場所や時間を選ばない多様な働き方ができる

紙の書類などでやり取りされていたプロセスを電子化することで、ハンコを押すためだけに出社するといった非効率的な業務プロセスが改善します。電話応対やFAXでのやり取りも同様で、電話はオンライン会議システムや携帯電話などで受け、FAXも画像データとして外部からファイルを閲覧できるようにすることができます。

・人的ミスの削減

人の手が介在する回数を減らせば、その分だけ人的ミスを減らすことができます。

・データ共有や利活用の促進

業務プロセスを電子化すれば、やり取りした内容をデータとして残すことができます。このデータを共有したり分析したりすることで、さらに業務プロセスを改善する、あるいは営業やマーケティングのアプローチなどを見直すといったことが可能になります。

・コンプライアンスの見直し

業務プロセスが電子化されていれば、その業務プロセスが正しく処理されたのかデータから確認できるようになります。また、扱うデータの重要性に応じたセキュリティ対策を行うことで、情報漏洩や改竄といったサイバー犯罪からビジネスデータを守ることが可能になります。

デメリット

・導入コスト、運用コストがかかる

新たにITの仕組みを導入する必要があるため、導入や運用にコストがかかります。また、必ずしも社内の従業員である必要はありませんが、管理運用にはその仕組みに詳しい人材も必要です。

・セキュリティリスクがある

適切なセキュリティ対策の実施が必須なことは他のITシステムと同じです。また、クラウドサービスを利用する場合には、信頼できるサービスプロバイダが提供する仕組みを選択することも大切です。

・システム障害が発生すると業務が停止する

ITシステムに障害が発生すれば、その仕組みに依存している業務プロセスは処理できなくなります。つまり、業務が停止するリスクがあるということです。重要度が高くリアルタイム性が問われる業務では、冗長化された仕組みを構築する、あるいはクラウドサービスなど外部の仕組みを利用するのであれば、SLA（Service Level Agreement）が締結できるものを選ぶことを検討すべきでしょう。

業務プロセスを効率化するクラウドサービス

クラウドサービスを利用すれば、導入や運用に大きなコストを掛けることなく業務プロセスを電子化できます。実際にクラウドサービスによって、企業がどのような業務プロセスを電子化できるのか、いくつか事例を紹介いたします。

jinjerで勤怠管理

小売業を営むA社は、勤怠管理には長年タイムカードを利用していました。打刻忘れや差し戻しなどが発生することも多く、毎月勤務時間を集計するのにとても時間が掛かっていました。

そこでＡ社はリモートワーク導入を契機にjinjerによる勤怠管理の仕組みを導入し、リモートからはPCやスマートフォン、オフィスに出勤した場合にはICカードによる打刻を実現しました。従業員の勤怠データは自動で集計され、リアルタイムで状況を確認することができるようになったほか、打刻忘れなどをアラートで通知することができるようになり、毎月の集計業務の時間を大幅に削減することに成功しています。

小売業であるため、店舗ではパートやアルバイトの従業員も多く働いていますが、全員がjinjerで勤怠管理ができるほか、英語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語にも対応していることを評価しています。

また、有休管理の仕組みがあるため、従業員から残日数の問い合わせがあってもすぐに回答できるようになりました。その他にも、残業時間や有休消化に関するアラート通知があるため、きちんと法律に沿った勤怠管理ができるようになっています。

なお、jinjerは勤怠管理や人事労務管理だけでなく、給与計算や精算管理といった機能も提供しています。

https://hypervoice.jp/jinjer

楽々精算による精算業務

Webメディアなどを展開するB社では、経費精算に課題を抱えていました。従業員は取材などに必要な交通費、宿泊費、会議費、接待費などの経費を立て替え払いしており、経理担当者は従業員から領収書と利用用途などを記載した明細を受け取ってから手作業で経費を精算していました。

B社は楽々精算を導入し、コーポレートカード連携や交通系ICカード連携の機能を利用し、可能な限り手作業での入力を削減することに成功しています。

従業員にコーポレートカードを持たせ、経費はコーポレートカードで支払うことを徹底することで、明細を自動でシステムに取り込むことができるようになりました。もちろん、すべての場所でコーポレートカードが利用できるわけではありませんので、現金などで支払った場合にはこれまで通り領収書を受け取る必要があります。しかし、その領収書もOCRによって大部分を自動で取り込むことができるようになっています。

交通系ICカードの連携機能によって、ICカードを端末にかざすだけで利用履歴をシステムに取り込むことが可能になり、従業員に出発地、到着地、経由地、金額などを記載した申請書類を書いてもらう必要がなくなりました。

明確な証跡が自動で取り込まれるため、不正な経費精算の心配もなく、コンプライアンスの面でもＢ社は楽々精算を評価しています。

楽々精算を提供するラクスでは、他にも経理向けサービスの楽々明細、データ管理サービスの楽々販売、人事向けサービスの楽々勤怠などを提供しています。

https://hypervoice.jp/rakuraku-seisan

freeeで経理部門のリモートワークを実現

リモートワークの導入や業務効率の改善など働き方改革に以前から熱心に取り組んでいたC社では、コロナ禍を契機に経理部門でもリモートワークを実現しています。

それまでC社のPCにインストールされた会計ソフトを利用していたため、経理部門の担当者はオフィスに出社することが必須となっていました。そこでC社は会計ソフトをクラウドサービスのfreee会計に乗り換え、オフィスに出社しなくても経理業務を実施できる環境を整えました。

Freee会計は銀行口座やクレジットカード会社との連携によって、明細を自動的に取り込むため、入力の手間を大きく削減するとともに、入力ミスを防止できるようになりました。領収書も撮影した写真をアップロードするだけでfreee会計がスキャンして自動で読み取り、日付や勘定科目などを自動で入力してくれるため、経費を精算したい従業員も領収書を撮影した画像を担当者に送るだけで申請可能になっています。

もちろんfreee会計はクラウドサービスであるため、インボイス制度など常に最新の法規制に沿った仕組みとして提供されています。また、C社は企業規模も小さいため、freee申告も契約して法人税などの申告書作成や電子申告も実現しています。

なお、freeeは会計と申告のほかにも、受発注、経費精算、請求書、インボイス取引先管理、人事労務、勤怠管理、マイナンバー管理、販売管理、会社設立などの仕組みを提供しています。

https://hypervoice.jp/freee

マネーフォワードで部門を横断した業務プロセスの電子化を実現

DX推進の一環として、D社では会計業務を中心にマネーフォワードクラウドの各種プロダクトによって、バックオフィス業務の大幅な電子化プロジェクトを実施しています。

中心になっているのはマネーフォワードのクラウド会計ですが、給与計算、経費精算、請求書発行といった業務もマネーフォワードクラウドの仕組みを利用しています。また、今後は勤怠管理や経費精算、さらに給与計算と連携した年末調整、社会保険事務や電子申請、マイナンバー管理などについても、現在の仕組みと親和性の高いマネーフォワードクラウドの仕組みを導入する方向で検討が進められています。

こうしたバックオフィス業務の効率化を実現するにあたり、D社では経理、人事、総務などの部門を横断し、業務プロセスの見直しと業務フローの改善にも取り組んでいます。既にD社では経費精算や給与計算の業務が大幅に効率化したことで、担当者の毎月の残業時間が大幅に削減され、業務の属人化も解消されています。

https://hypervoice.jp/moneyforward-cloud

業務プロセスを電子化するにあたって注意すべきこと

もちろん業務プロセスを電子化したからといって、即座に業務が効率化したり生産性が向上したりする保証はありません。

「経理部門の人数が少ないので業務を自動化したい」「バックオフィスもリモートワークできるようにしたい」「生産性を向上させて働き方を見直したい」といった明確な目的を設定し、その目的のために業務プロセスを電子化しなければならず、業務プロセスの改善は継続して改善していくことが大切です。

まとめ

業務プロセスを電子化することで業務効率の改善や生産性の向上が見込める
クラウドサービスによって電子化できる業務プロセスも多い
業務プロセスを電子化するだけでDXが推進できるわけではない