「2030年には国民生活や社会経済活動の基盤となる『超重要インフラ』において、設備の３割が人材不足によってメンテナンス不能に陥る可能性がある」と指摘するレポートが公開されました。

公開したのはインフラ設備のメンテナンスサービスを提供する株式会社マイスターエンジニアリングで、同社はこの問題を「2030年クライシス」と呼んでいます。

超重要インフラを支えるエンジニアが激減

内閣サイバーセキュリティセンター（NISC）が2022年に策定した「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」では、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の14分野を超重要インフラとして位置付けています。これらは「他に代替することが著しく困難なサービスを提供する事業が形成する国民生活及び社会経済活動の基盤であり、その機能が停止、低下又は利用不可能な状態に陥った場合に、わが国の国民生活又は社会経済活動に多大なる影響を及ぼすおそれが生じるもの」として定義されています。

マイスターエンジニアリングは、このままでは2030年には3割以上、2045年には5割以上の設備でメンテナンスが成り立たなくなる可能性があると警告しています。

エンジニア不足に陥る最大の原因は、日本の少子高齢化に伴う労働人口の減少といわれています。2000年の人口を基準とした比較では、2030年には約2/3、2045年には半分以下にまで減少する見込みです。

当然のことながら、エンジニアの減少に伴って、彼らを雇用してサービスを提供しているメンテナンス企業も減少していくことになります。メンテナンスサービスを請け負う企業の大半は従業員が20名未満の中小零細企業であることから、労働者を確保できずに事業継続が困難になるそうです。

Z世代の求職者には不人気

さらにこの問題を深刻化させているのは、新たにメンテナンスエンジニアになりたいと希望する若者が減少していることにあります。Z世代の求職者は、夜勤や休日出勤など「イレギュラーな働き方」、危険な場所や炎天下での屋外作業など「肉体的にハードな環境」などメンテナンスエンジニアに対してネガティブなイメージを持っていることが調査で明らかになっています。しかも、この数値は現在メンテナンスサービスに従事しているエンジニアたちのイメージを上回っています。

つまり、Z世代の若者の多くは、実際よりもメンテナンスエンジニアが大変な仕事だと思っており、それが職業選択における大きなハードルになっているということになります。

エンジニアが減少する一方で需要は高まっていく

近年、再生可能エネルギーシフトの潮流によって、新たに事業用設備を設置する件数も増加しています。もちろん既存設備の老朽化も深刻です。そのため、今後ますますメンテナンスの需要が高まることが予想されています。

エンジニアが減少している中でメンテナンス需要だけが高まれば、必然的に1人当たりの負担が増加せざるを得ません。その結果として起こり得るのが「メンテナンス不足による事故」です。既に2016年以降、メンテナンス不足 (保安不完全) による設備の事故は増加傾向にあり、今後はますます深刻な状況に陥る可能性が高くなっています。

すでに未来の問題とはいえない状況になっている

2030年クライシスと呼んではいるものの、既にエンジニアの人材不足は顕在化しつつあります。

エンジニアが技術を習得するには時間が必要であることを考えると、6年後の2030年に起きる問題なのではなく、今すぐに対応しなければならない状況であることは間違いありません。

メンテナンスサービスの現場を知るマイスターエンジニアリングは2030年クライシスに対処するため、「技術者採用の門戸を開放と科学的教育の実施」「現場業務DXの推進による抜本的支援」「技術サービス連邦化による廃業危機企業の事業継承」などの施策を打ち出しています。

また、人材確保の課題については、「官民連携したメンテナンス技術職の魅力発信」「官民連携でメンテナンス現場の働き方改革促進と積極的なアピール」「未学習者・未経験者がメンテナンスエンジニアに成長できる育成環境の拡大」などを提言しています。

参考：株式会社マイスターエンジニアリング「2030年クライシスに陥る『超重要インフラ』メンテナンス人材不足調査レポート」

まとめ

・2030年にはエンジニア不足によって多くの超重要インフラがメンテナンス不能になる

・少子高齢化による労働人口の減少に加え、メンテナンスエンジニアは若者に不人気

・既に問題は顕在化しつつあり、官民一体の対策が急務となっている