4月から始まる大阪・関西万博では、次世代ネットワークのIOWN APNが導入されます。IOWN APNは、大容量で低遅延、消費電力が極限まで抑えられた次世代ネットワークとして注目されています。従来の通信とは何が変わるのでしょうか。

IOWN構想とは

NTTグループが2019年に発表した「IOWN構想」。2020年にはNTT、インテル、ソニーグループと共同で「IOWN Global Forum」という推進団体を立ち上げ、2024年9月時点で世界各国から150を超える企業、団体が参加しています。

IOWNはInnovation Optical and Wireless Networkの略。ネットワークやコンピューター内部で、従来、電気を用いていた信号のやり取りを光に置き換え、高速大容量で低遅延のデータ伝送を実現する、というものです。IOWNは、消費電力も劇的に削減できるといいます。

スマートフォンで誰もが通信を行うようになり、IoT技術であらゆるものがネットワークにつながるようになった現在。情報通信量は年々増え、世界全体のデータ量は2010年からの15年間で約90倍へと増加するともいわれています。

また、ネットワークに接続するデバイスの増加は、ネットワークへの負荷のみならず、電力消費量も増加させていきます。

こういった問題を解決できるゲームチェンジャーとしてIOWN構想は期待されています。

IOWN構想には3つの軸があります。

このうちAPNは2023年に「APN IOWN 1.0」として商用化されています。

参照：IOWN｜NTT

IOWNの技術

先ほども触れたとおり、「光」の技術をベースとした、新しいネットワークとコンピューティングの技術基盤です。

光通信は1980年代に始まりました。それからの約40年で光ファイバーの通信速度は当時よりも6桁高速化しています。光通信は半導体レーザーや平面光回路、ファイバーアンプなどの発明や、近年開発された「デジタルコヒーレント通信用信号処理回路（DSP）」などに支えられています。

DSPは、光の偏波や振動、位相などをデジタルデータとして取り込んで、光信号の歪みを補償する回路です。この技術では、世界最大容量（2022年9月現在）、1波長あたり1.2テラビット/秒のデジタル信号処理を実現しています。

従来のコンピューターチップは、電子技術が活用されてきましたが、発熱の問題があり性能はある程度までで制限せざるを得ない状況にあります。光通信技術を用いることで、低省電力化されれば、高速演算技術を組み込んだチップを作ることが可能になるというのです。この新しい技術は「光電融合技術」と呼ばれます。

APNの目標は、電力効率を100倍にする低消費電力、伝送容量を125倍にする大容量・高品質、エンド・ツー・エンド遅延を200分の1にする低遅延です。

夢洲会場内のパビリオン・催事施設等の主要施設間でIOWN APNが利用されることになりました。

イベント会場で映像制作を行う際、通常は中継車を使いますが、今回の万博では放送局各社が共同で利用できるリモートプロダクション設備が置かれます。これは、イベント会場などと放送局をIPネットワークで接続し、放送局から中継先のカメラなどを遠隔操作する手法です。

データセンターと万博会場、放送局をIOWN APNの技術を用いたAll-Photonics Connect powered by IOWNでつなぎ、制作設備をデータセンター上に設置する予定です。

各社が共同利用できるため、番組制作のための効率化やコスト削減が可能になります。

IOWNはまだネットワークのみが商用化されたところです。今後、DTCやCFが実用化された際には以下のような用途が想定されています。

コロナ禍以来、オンラインイベントが増えています。従来の技術では、遅延が発生していましたが、ほぼリアルタイムでの体験ができるようになります。そればかりでなく、例えば360度好きな角度から高解像度な映像と音楽の配信で、アーティストのそばにいるような疑似体験が期待できます。

インフラ整備や機械メンテナンス、工事現場などでの人材不足のため、遠隔で機器を操作したり、現場を目視したりという試みが行われています。ここにもIOWN活用することで、より迅速な対応が可能になります。

生産ラインでの自動化でも、異常検知やその対策までにかかる時間も短縮できます。将来的には、設備の監視や、ドローン、ロボットを使用したメンテナンスなども含め、トータルで工場全体のマネジメントまで対象領域とすることも考えられています。

さらに、人間の五感をデジタル化し、リアルタイムで伝送することで作業者に没入型遠隔トレーニングすることなども想定されています。

常時と異なる事象が発生した場合、監視カメラなどが検知してデータを送信することで、いち早く対策がとれるようになります。

伝送量の制限で省かざるを得なかった映像や音声の情報も、現状より精細なデータで届けることが可能になります。

地方によって外科医不足が問題になっており、一部で遠隔操作できる手術支援ロボットが使用されるようになりました。

現在の技術では、遅延が不規則に生じる「ゆらぎ」のために手術が困難になることもあり、遠方からの作業は難しい状況ですが、APNにより地域を超えた遠隔手術ができるとされています。

AIやIoTの発達で、企業団体の扱うデータ量が莫大になってきています。有事に備え、地域を分散してデータのバックアップをとっている企業もありますが、ネットワーク速度が上がれば、ほぼリアルタイムでのバックアップも可能になります。

街に張り巡らせたセンサーやカメラなどから環境データ、設備稼働データ、消費者属性などを分析し、必要に応じて都市インフラ、設備の最適化、住民の利便性などを高めるというスマートシティ。高速、低遅延の通信は欠かせません。

IOWN APNも、その実現に活かされることが期待されています。

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