近年、企業規模に関係なく「業務の属人化」が問題となっています。業務の属人化とは、作業の内容や進め方、進捗状況を特定の従業員しか把握していない状態です。その従業員が休暇を取得したり、退職したりすることで業務効率が低下してしまうのです。そこで今回は、属人化のリスクとその解消方法について解説します。

なぜ属人化は起きるのか

業務が属人化する理由としては、次のようなことが挙げられます。

・人材不足
・業務状況や情報の共有不足
・業務内容が専門的
・レガシーな仕組みの業務
・個人成果主義

人材不足や業務の多忙さというのは、どの企業でも頭を悩ませている問題でしょう。人手が足りないので業務が多忙になり、仮に新たな人材を確保できたとしても、教育する時間を確保することが難しいという悪循環に陥ることもあります。

特定のスキルが求められる専門性の高い業務は、積極的に従業員同士の情報共有やスキル継承のための教育の仕組みを整えておかなければ、あっという間に属人化してしまいます。担当者ごとに業務の品質が違うというのも、よく見受けられることです。

属人化の原因として意外と多いのが、非常に古い業務システムを使い続けている、あるいは複雑なマクロを使用したExcelがずっと引き継がれている、ということです。網羅的なマニュアルなどが用意されていないケースも多く、「何のために必要な作業なのかは分からないが、前任者にこのように対応するように教えられた」などと、仕組みもわからないまま何年も使い続けている担当者もいました。

また、解決が難しい属人化の要因に、「個人成果主義」があります。つまり、自分だけが成果を上げるため、情報を他者と共有しない人も少なからず存在するのです。これは、営業など個人の成果が明確になる部署で起こりがちです。

属人化を防がなければならない理由

多くの業務は、慣れている人が対応した方が速くて正確です。一見すれば効率的なことですが、特定の従業員がいなければ業務効率や品質が低下し、業務が停滞するのであれば、それはリスクでしかありません。

ネガティブなイメージで捉えられることが多い属人化ですが、見方を変えれば「職人技」や「スペシャリスト」の業務であるともいえます。「世界中でこの人にしかできない仕事」は、その人が所属している会社でしかできない仕事ということですから、ビジネス的には他社との大きな差別化にもなります。一方でその人がいなくなってしまえば、その差別化ポイントはなくなってしまうというのは、やはりビジネスリスクと言えるでしょう。仕事ができる人がいるうちに、そのナレッジや技術は継承しなければなりません。

また、成果主義的な部門では、しばしば従業員間に競争意識が芽生えます。競争意識そのものは悪いことではありませんが、情報共有されていない状態で誰かがミスをする、あるいは何らかの理由で仕事ができなくなってしまった場合、ほかの人がフォローできないという大きなリスクがあります。

属人化を防がなければならない業務として「バックオフィス業務」「セキュリティ対応やトラブルシューティング」「プロジェクト管理」「顧客窓口」などを挙げる企業が多いようです。しかし、基本的にどの部門の業務であっても、その業務を理解して動かせる人が複数人いなければビジネスリスクであることを理解しておく必要があります。

属人化を解消するために必要なこと

業務を属人化させないためには、「業務の可視化」が最も重要です。理想的なのはすべての業務を棚卸して業務フローを見直し・改善し、ほかの従業員にも共有できるように明確化することです。しかし、多忙な業務をこなしながら改善に向けた活動ができる企業は少数でしょう。

そこで、まずは各従業員に自分が行っている業務や、困っていること・改善してほしいことなどを書き出してもらうところから始めてみてください。次にチームメンバーや同じ部門の人たちが何をしているかを把握するようにするとよいでしょう。書き出し先としておすすめなのは、従業員で共有しているコミュニケーションツールですが、特にタスク管理ツールや課題管理ツール、そして社内のwikiツールやSNSの活用が効果的です。

まずは、ツールを活用した業務管理を

タスク管理ツールや課題管理ツールは、システム開発やサポート業務で利用するものと思われがちですが、バックオフィス業務においても活用できるものです。仕事のやり忘れを防止することができるだけでなく、日報のように業務記録を残すことができます。また、誰かに質問する際にも、ツールを経由して質問すればそれまでの経緯を含めて相手に伝えることができるため、的確な解決策を示してもらうことが可能です。

業務の手順や注意点は、まめに社内wikiツールに書き込んでおくと簡易マニュアルやFAQのように利用できます。タスク管理ツールや課題管理ツールで話題になったことを社内wikiツールにまとめておくという使い方をすることも多いようです。また、不特定多数の相手に質問したり、アイデアを募集したりするには、社内SNSが便利です。このようにツールで業務を管理しておくと、担当者が不在になってもほかの人がその担当者の業務内容を把握し、疑問が生じても解決できる可能性が高くなります。代理で行った業務もツールで報告しておけば、担当者が帰ってきたときにもスムーズです。

もちろん、余裕があれば業務マニュアルを用意する方が効果的であることは間違いありません。業務の目的や手順、ちょっとしたコツ、トラブル対処法が記載されたマニュアルがあれば、新しい従業員にも短期間で業務を覚えてもらうことができます。いきなりマニュアルを作成するのはとても大変なので、最近ではマニュアル作成ツールを利用したり、動画のマニュアルを作成したりする企業も増加中です。

業務管理ができたらフロー改善に着手

ツールを活用して少しずつでも業務フローを可視化できるようになったら、その業務フローを改善できないかチームで検討する機会を設けるようにしましょう。例えばレガシーで使いにくい業務システムや複雑なExcel管理を一新し、クラウドサービスを利用するなど、困っていることがないか、無駄はないかを継続的にチーム内で評価・検討します。このようにPDCA（Plan（計画） Do（実行） Check（評価） Action（改善））サイクルを回すことで、属人化の解消、そして業務効率化が実現するのです。

業務フローの可視化と改善、社内ナレッジの蓄積は、一朝一夕にできるわけではありません。企業ごとに向いている方法は異なりますし、いきなり新しい仕組みを全社的に実施するのは難しいことでしょう。

まずは、着手できるところから始めてみることをおすすめします。例えば総務部門から改善活動を始めて、ほかの部門からの問い合わせに対して社内wikiツールのURLを答える、質問事項を課題管理ツールに入力して回答してもらうなど、少しずつ巻き込む相手（部門）を増やしていくとします。そうすると、ツールの便利さに気づいて導入する部門が増え、社内ナレッジ蓄積にもつながるかもしれません。

まとめ

・業務が属人化すると、担当者がいなくなった途端に業務に支障がでる
・属人化を防ぐには業務フローを可視化して情報共有することが重要
・ツールを活用して情報共有と社内ナレッジを蓄積しよう