近年、自動翻訳・機械翻訳の精度が格段に上がり、日常の業務に取り入れる企業も増えました。入力するだけでかなり正確な訳が出力される便利さは、一度使ったら手放せないツールです。その反面、セキュリティリスクも指摘されています。どのようなリスクがあるのでしょうか。

自動翻訳・機械翻訳のしくみ

自動翻訳が出始めた頃は誤訳が多く、英語から日本語の翻訳をすると意味の通らない文章が出力されることが少なくありませんでした。当時の翻訳はルールベース機械翻訳、つまり、翻訳の規則を人が作成し、それを組み合わせて訳文が生成されるものでした。規則を作成するのは限界があり、また登録されていた単語数も現在に比べると圧倒的に少なかったため、誤りが起きやすかったのです。

ルールベース翻訳より少し新しい手法として、統計的機械翻訳というものも誕生しました。

こちらは、対訳データを大量に登録し、統計的手法で訳文を出力するもので、ルールベース方式よりも多言語翻訳に対応しやすいというメリットもありましたが、現在主流の「ニューラル機械翻訳」ほどの柔軟性はありませんでした。

ニューラル機械翻訳は、人間の脳神経細胞の活動を模倣したモデルで、人間が記憶する活動を機械にシミュレーションさせるAI技術です。人工知能が、データをインターネット上の情報から収集、学習し、情報同士を関連付けます。単語やフレーズを文脈から総合的に判断し、正確かつ自然な文体での翻訳を出力する仕組みです。

自動翻訳サービスのリスク

多くの自動翻訳はクラウドでサービスが提供されています。翻訳したい文を入力したり、文書をアップロードしたりして使うことになるため、通信が保護されていない場合は第三者に情報の漏えいの可能性が否定できません。

有名な自動翻訳サービスではありませんでしたが、実際に翻訳した情報が漏えいしてしまったケースも過去に起きています。また、ニューラル機械翻訳では、入力した文に含まれていない単語が出力される「漏れ出し」という現象が起こることもあります。

例えば、「大雨で冠水した」とだけ入力したのに、「”5月に”大雨で冠水した」「”千代田区で”大雨で冠水した」などと、訳される現象です。こういった事例は、それ以前に学習したデータに含まれていた情報が、関連付けて出力されてしまうからです。

いつ、どこで、といった情報が勝手に付加されることで、翻訳サービスを使った人が、過去の事例や事件などと結びつけて推測することができてしまうかもしれません。特に、無料サービスは誰がどのような目的で使っているかわかりませんので、リスクはより高くなります。

自動翻訳サービスを用いるときは、アクセス制限の機能があるか、データが暗号化されているか、データの自動削除機能があるかなどを事前に確認すると安心です。

「DeepL」の場合、無料版では入力・アップロードしたデータは全てDeepL社のサーバーに保存され、それ以降の翻訳のためのアルゴリズムに利用される可能性があります。

それに対して、有料版のDeepLでは、データが全て暗号化され、入力・アップロードしたデータや翻訳データは、翻訳完了後すぐに消去される仕組みになっています。その他、有料の自動翻訳サービスを見てみると、それぞれにセキュリティに力を入れているのがわかります。

「Mirai Translator」は情報セキュリティの国際規格ISO27017、ISO27001に準拠し、DeepL同様に翻訳が終了するとデータが自動的に削除されます。翻訳処理は日本国内のサーバーで行われ、海外にデータ流出することもありません。

「ヤラクゼン」は、アカウントごとにデータが個別管理されるため、他社に情報が流出するリスクがありません。

「Trados Studio」は、メモリデータベースへの安全なアクセスを提供するほか、クラウドだけでなくオンプレミス環境での利用も可能です。

ロゼッタが提供する「T-4OO」は、データを日本国内のデータセンターで保管し、さらにSSL通信で外部から保護されます。翻訳文は2週間後に自動削除。ユーザーが任意で削除することもできます。

有料サービスであっても、「漏れ出し」を100％防ぐことは難しいといわれていますが、セキュリティ対策を行っている分、格段にリスクは低くなります。

誤訳にも注意

訃報での慣用表現に「be survived by」という熟語があり、英和辞典などを引くと「〔人より〕長生きする」とあります。誤訳しやすい熟語ですが、He is survived by his wife.は「彼は妻を残して亡くなった」という意味です。これを3つの機械翻訳にかけてみたところ、結果は以下のようになりました。

自動翻訳サービスA：「妻がいる。」「妻に先立たれた。」

自動翻訳サービスB：「彼は妻によって生き残っています。」

自動翻訳サービスC：「彼は妻に先立たれました。」

ほぼ逆の意味になってしまっているのがお分かりでしょう。

ビジネス文書や論文での翻訳に関してはかなり正確になった自動翻訳サービスですが、受動態や慣用表現などで誤訳が生じることもあることは、頭に入れておいたほうがいいでしょう。

まとめ

・現在の自動翻訳はAIがネットワークから情報を収集するニューラル機械翻訳が主流
・クラウドで翻訳データを扱うため情報漏えいのリスクがある
・翻訳サービスのセキュリティ対策を確認してから有料サービスを使用するとリスクが低減